最近kindleで漫画を買いあさっている。
だんだん冊数も多くなってきたので、何冊かレビューしたい。
ところで私の親族は変わっている。
「住みにごり」を始めた読んだとき、真っ先におばさんを思い出した。
おばさんは近所の野良猫を保護して回り、ねこおばさんと近所の小学生に呼ばれている。贔屓目なし美人でとある女優にそっくりだ。あまりに美しい人なので、小学生の時は恋慕に似た感情も持っていた。
おばさんはそんな美人なのに浮いた話などはなく、田舎のボロ家で祖父母と暮らしている。私が遊びに行ったときはすぐに迎えに駆けつけてくれる面倒見のいい年の離れたお姉さんといった感じだった。
ある日のことだ、就職が決まり、一段落した私が久しぶりに祖父母の家を訪ねた時だった。おばさんはいつものように私を迎えに来てくれて、祖母、おばさん、私の3人で和やかに話していた。
何度かの信号待ちの後、順調に車を走らせていたおばさんの表情が急に変わり、何もない道で急停車させた。おばさんの運転は荒っぽい。
何か跳ねてしまったのではないかとヒヤっとした。辺りをみても街路樹が続く殺風景な道路が敷かれているだけ。
「ど、どうかした……?」
おばさんは険しい顔をして、車をバックさせようとしているようだった。
ばあちゃんはその様子を見て「ダメだ!拾うな!」とだけぴしゃりと叫んだ。
おばさんの肩が跳ね、私も驚いてばあちゃんの方を見る。ばあちゃんは目をつむったまま首を横に振った。
しばらくおばさんはうつむいて「でも……ほっといたら死んでしまうかもしれんよ」とこぼし、バックミラーを心配そうに見ている。
そこには野良猫が1匹歩いていた。
「あんなにやせてしまって。あんなんで冬をこせるはずない」
そんな言葉を遮るように、ばあちゃんは静かに、しかし強く響く声で言った。
「それでも拾うな!今家にいる猫だけを救いなさい!」
後で聞いた話だが、おばさんは瀕死の猫を拾っては看病し、看取っているようだ。それはもう数えきれない数になるらしい。
そのせいで、自分にかける時間や、お金などはほとんどない。時には借金もしている。それでも次から次へと猫を拾ってくるんだと。
ばあちゃんは呆れたように煙草をふかしながら教えてくれた。
おばさんは私が小学生の時からこれを続けている。ちなみにこの話を聞いたは社会人になってからだ。
私は少しぞっとした。
美しくて、気さくで、優しいおばさんの狂気じみた内面に触れた気がした。
子供のころっていうのはまだ純真だ。
何が普通で、何が普通じゃないか。何が異常なのかなんてわかりはしない。
大人になって「家族」という閉鎖的なコミュニティから飛び出た瞬間。
今まで信じていたあたりまえが、人にとっては奇行足り得ることを知るのだ。
その瞬間、自分の認知が塗り替えられた瞬間の恐怖と気持ち悪さと言ったらない。
私たちが見ている人間は家族ですら、表層の一部で、深い部分は理解が及ばない闇が渦巻いているのだと思う。
そんな薄気味悪さを120%漫画で表現しているのが本作だ。
家族。閉鎖的なコミュニティ内でのリアルな人間の歪さ
本作の人間はあまりにリアルすぎる。
本当にみんな歪なのだ。全員が何かしらの暗闇を心に抱えている描写がある。
この漫画を読んだときに感じる不快感たらない。
この不快感ってなんなんだと考えてみると、我々読者自身がこの「住みにごり」に登場していてもなんら不思議はないだろうなと思う部分もあるからかもしれない。
この世に普通の人間などいない。みなどこか歪んでいて秘めているものがある。
その歪みは他の誰かにとって狂気的に見えたりする。では自分のどこがどう歪んでいるのかを判断するにはどうしたらいい?自分の歪みを観測している人間が歪んでいない保証がどこにある?
歪みは自分にもどこかに必ずあるはずなのだ。
それが人間なのだ。
しかし、漫画という媒体で、誇張もせず、ただただストレートにぶつけてくる作品はそうない。
だいたいみんなホラーにしてしまうとか、それをテーマにして美談にして乗り越えるとか、その歪みを解決しようとして物語が動く。
でも本作「住みにごり」は違う。
閉鎖的で生まれた「濁り」をそのまま享受し、物語は進んでいく。
人の家の恥部に土足に踏みこんでみているような気持ち悪さがそこにある。
本当に狂っているのは誰だ?
この漫画、後半にいくにつれ、各々の「濁り」が見えてくる。
それが絡みつき、ぐちゃぐちゃに混ぜられた時、誰が狂っているのか?この不穏な空気は誰のせいなのか。全くわからなくなってくる。
読み手側が濁りに引っ張られ、「実はこいつ、案外まともなんじゃないか?」とか「いや、こいつがおかしいんじゃないか?」と住みにごりのなかに巻き込まれていく。
それは汚泥が体にへばりついていく感覚に似ていて、本当に気持ちが悪い。
見たくない部分を見せられる不快感
なんていうのだろう。心的描写というか、人間の描写に極振りしている漫画で、そこにある程度の事件性めいたものが絡んでくるので、飽きずに引き込まれるように読める。しかし気持ちがいいものではない。なんというか心にひっつく。
作者はいがらしみきお先生が好きなのかな。影響をうけているのではないかと感じる。
いがらし先生の「羊の木」、「あなたのアソコを見せてください」を読んだときの気持ち悪さに似ている。
人間の欲やらなにやらが鍋でぐちゃぐちゃにかき混ぜながら煮ているような感じ。
マンガやドラマでぼかす部分をありのまま描かれると怖いんだよ。人間は。
自分もそうであることを見せつけられているような気がして。
善悪ではない動物的な原罪を見せつけられているような気がして、身がすくむんだ。私はそれがこの漫画の不快感の正体で、一番いいところだと思う。
そんな不快感を味わいたい人に「住みにごり」はオススメ。
あ、そうだ。
ちなみに前半書いたおばさんの話は純度100パーの嘘です。
嘘の割にどうにも生々しいですけどね。
どうでしょうかね。じゃあ本当なんでしょうかね。
いてもいなくても、レビューには関係ないし、いいじゃない。ねぇ?