ミソジノハカバ

脳内のガラクタ置き場。フィクションとノンフィクションが入り混じったカオスです。ゲームの話が多いですが、おもしろいと思ったことはなんでも書き留めます。

【マンガ】「よいこの黙示録」を語る

諸君ら、高校の時、好きな教科はなんだった?

私はダントツで倫理だ。

教科書だけでは足らず、図書館にいって色々調べたものである。マキャベリズムとかプラグマティズムとか……

そして倫理を学ぶ上で避けて通れないもの。

それは「宗教」である。

キリスト、仏教、イスラムユダヤヒンドゥー……いろんなものを読んで学んできた。いろんな文化、歴史背景によって培われた教義は学ぶべきところがたくさんある。

私は宗教自体は意義あるもので肯定派である。

ちなみに私はどの宗教にも属さない。一つに依ると全体が見えないからね。

だから勧誘は勘弁な。

 

そんな私が面白い!と思ったマンガを紹介しよう。

小学生が宗教を興そうとする凄まじい漫画。

それがよいこの黙示録である。

 

よいこの黙示録(1)著:青山 景
発売日    2011年03月23日
価格    定価:597円(本体543円)
ISBN    978-4-06-352356-0
判型    B6
ページ数    192ページ
シリーズ    イブニングKC

引用元:講談社コミックプラス

引用元URL:https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000038748

 

 

あらすじ

主人公、湯島朝子は産休の教師の代わりに4年2組の担任を受け持つことになる。

登校初日、日課である朝の会の読書会を行っている際に、ささいな議論が巻き起こる。それは自分たちの住む街、多伽羅川に蛍がいるのか、いないのかというものだった。

 

キッカケは中島という生徒の作文。

 

読書会で、篠崎という生徒が環境破壊によって多伽羅川に蛍がいなくなったと発表をする。

しかし、同クラスの伊勢崎が、その内容は過去、中島が書いた作文と矛盾すると指摘する。中島の作文には同級生、森ユリカが川にお祈りをした時にたくさんの蛍が出たと書かれており、中島はそれを嘘ではないという。

 

担任の湯島がうまく収めようとしたその時、伊勢崎が一言こういうのだ。

 

「森がもう一回蛍を呼んでみせりゃーいいんじゃね?」

 

この一言で、篠崎派、中島派の対立という構図になってしまい、どちらが嘘つきか確かめることになってしまった。

 

湯島はクラスの主導権を握り、騒動の煽動を行なっているのが伊勢崎だと気付き、話を聞きにいくところから物語は始まる。

ここから先は、自身で読んで欲しい。

 

そのときの伊勢崎の戦慄するセリフを一部抜粋する。

「あの作文 手にしてから 1年まった」

「あ 篠崎にあの本薦めたのも俺ね」

「今日はやっと巡ってきたチャンスに手が震えて 平静を装って誘導するのも 正直 骨が折れたよ」

「センセイ 俺はね 自前の「神」が欲しいんだ」

「森ユリカを教祖にして このクラスに宗教を興す」

引用元:よいこの黙示録(1)

著:青山 景

 

伊勢崎はイジメが起こるかもしれない状況を巧みに作り出し、担任教師湯島が介入せざるを得ないように誘導したのだ。自身の目的に大人を巻き込んだのである。子供のコミュニティの中での大人は特別な意味を持つ。伊勢崎はこれが起こせる機会を、虎視眈々と、一年も待ち続けていたのだ。

 

 

作品に渦巻く静かな不安

まず、テーマである「小学校」と「宗教」。

「子供たちの閉鎖的なコミュニティ」と「宗教」という構図だ。

もうそれだけで並々ならぬ不安感がある。

この漫画、絵柄も可愛くポップだ。

作中では宗教で嫌な思いをした人間もいない。暴力で信者を集めたり、圧政を敷いたりしているわけでもない。

むしろ森ユリカがすごい!というプラシーボ効果で苦手を克服した者までではじめる。

それが逆に怖くて危うい。子供の思想は簡単に動いていくからかもしれない。

 

森ユリカ(教祖)を中心にさまざまな噂が広がり、周りの人間に強く影響が出始める。

それは小さな石を湖面に投げ入れるような波紋、心の動揺なのだが、伊勢崎は巧みにそれを誘い、心に滑り込み、大きく周りを動かしていく。

 

別に悪いことが起きているわけではない。

しかし影も形もなかった神様が、4年2組にチラつくようになる。

これがなんともいえない不気味さを作り出しているのだ。

 

人為的に認知が揺らされる瞬間の怖さ

教祖に仕立て上げられた森ユリカは直接何かをするわけではない。

言葉もほとんど発さない。

しかし伊勢崎が彼女をどんどんと神格化していく。

その手段に暴力や、説得を用いないというのが怖いのだ。

各々が彼女が特別であると納得するようなシナリオを用意し、そこに誘導していく。

それは個人に沿ったエピソードが用意されており、計算され尽くされた動線である。

それを感じさせないくらい自然にそこに進ませる。そして最後は本人に選び取らせるのだ。

信者たちは自分で選び取ったと思っているから彼女を神格があるものと認知していく。用意されたものだとは考えもしない。

そしてその情報を悪意なく他者に伝播し、周囲の認知も揺らぎ始める。

この揺らぎが大きなうねりになっていくのだ。

 

人間はこうして嘘を真にするのかと感心してしまった。

 

終わらない物語

この作者、青山景先生は自ら命を絶たれており、続きを読むことはかなわない。

ここから先、彼らはどうなっていくんだろう。

 

漫画タイトルについている「黙示録」という文字。

冒頭の人々の不穏な会話

彼ら神聖児童教団 戒律第一条の文章。

 

僕タチ私タチ一同ハ

自衛ノタメデアッテモ

問題解決ノ手段トシテ

武力ヲ用イルコトヲ放棄スル

 

但シ、教祖様ガ「ヤレ」ト

命ジタ場合ノミニ於イテハ

ソノ限リデハナイモノトスル

 

 

間違いなくハッピーエンドじゃないだろうと予見させる。

こんな気味の悪さが至る所に散りばめられてる。

全ての要素がこの作品に異様な迫力を持たせているのだ。

 

ちなみに2巻には今後の構想プロットが文章で収録されている。入信の条件が付けたされたり、宗教が必要かどうか議論するという展開を構想していたようなのだが、それがまた怖いくらいよくできてるんだ。

一部を紹介してシメとする。

 

「もし本当に自らの宗教(性)を微塵も認めない全き無神論者がいるなら、そのものは近親者の死に際しても遺物をすぐさま破棄し遺体を踏みつけても何も感じないはずだ」

とし、ウサギの死体を指さし、

「宗教(性)が必要ないなどと言うなら、この死体を踏んでみせろ」

 

引用元:よいこの黙示録(2) 設定資料及びプロットより抜粋

著:青山 景

 

すごいセリフ。

しかしこの言葉に宗教とはどういうものかが集約されている。

続きをぜひ読んでみたかった。

 

宗教とはどういうものか、信仰とはどうやって起こるのか、とても勉強になるので、ぜひ読んでみて欲しい。

 

私はとても好きです。

 

 

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