ミソジノハカバ

脳内のガラクタ置き場。フィクションとノンフィクションが入り混じったカオスです。ゲームの話が多いですが、おもしろいと思ったことはなんでも書き留めます。

【作り話】いわゆる「神様」の仕事

猶予がない。私は焦っていた。

「世界開始」まではもう幾許もない。

まず、前任の馬鹿者が破綻させた世界をこんな工程で修正しろというのにそもそも無理がある。

 

私は世界を創造する仕事をしている。人間的な表現で表すとするなら、所謂神様だ。神と言ってもそう大層なものじゃない。ただ広がる銀河の余白を埋める役割を担っているだけで、それも私からする神様に命じられてやってることで、極めて業務的なものだ。自分の作ったものから崇められようが私にとっては瑣末なことで、なんなら虚しさすら感じる。そこに高い理想や理念があるわけじゃないのだ。信仰されても正直困る。

人間、私、神様。恐らく神様の上には更なる神様がいるのであろう。この世は階層で成り立っているというわけだ。

 

今、私はある世界の修正作業に追われている。

なぜそんな面倒なことをしなくてはならないのか。それは単純に前任の馬鹿が失踪したからである。

世界創造と管理にはある一定のルールが存在する。細かなものは省くが、大原則として、「世界の中心対象が目的を達するように世界を設定しなくてはならない」。世界創造はこの目的を果たさせるよう道筋を整える必要があるのだ。玉を転がしてゴールに入れるゲームに似ている。

 

私が手がけた世界はもはや数えきれない。

人間が時を超える、魚が空を飛ぶ、ニラ饅頭が世界を埋め尽くす、など多種多様な目的の世界を創造してきた。

 

今回のルールは「勇者が魔王を倒す」だ。

極めてシンプルな初心者向けの創造のはずなのだが、なにがどうすればこうなるのか、それはもう酷い有様でどれから手をつけるべきかわからない有様になっているのを引き継いだ時、怒りより先に笑いがこみあげてきた。

まったくやる気のない者を雇ったのだろう。神はいつだって人手不足なのだ。

始まりかけの世界を修正するのには手間がかかるが、再構築申請はもう間に合わない。工程上、この滅茶苦茶な世界をなんとか破綻なくさせるしかないのだ。

 

仕方なく、魔王に「天啓」を与えることにした。

天啓といえば聞こえはいいが、簡単に言えばネタバラシして世界構築を手伝ってもらうわけで、これに頼る創造は三流であると言わざるを得ない。

本来であれば、私の美学に反するし、なにより創造したものに過度な干渉は御法度である。が、今回のケースはそうもいっていられない。

 

「ざっと説明は済んだが、魔王。理解はできたか?」

 

概要を説明した私の前には紫色の皮膚、四つの目、鋭い牙をもつ魔王が鎮座している。

 

「はぁ。一応、理解はしましたけど。」

「なんだ、その軟弱な喋り方は!もっと傲岸不遜に振る舞え!」

「そういわれても……私の性分ですので」

「クソ!序盤の城の執事みたいな喋り方は問題だぞ。仕方ない。この辺は神様権限で後に修正してやる。魔王、まず名前は?」

「シャルルンです」

「めまいがしてきた。改名しろ。今日から君の名前はギリデスダリアンだ。決定」

「そんな。ギリデスダリアンなんて発音しづらくありせんか。あんまりだ」

「しようがあるまい!君は魔王なんだ!シャルルンなんてそんな安いシャンプーみたいな名前でいいわけないだろ!!」

 

前任者はいったいどういう設計でこの世界を作ったのか。全く基礎通りになっていない。

マニュアルは読んだのだろうか。いや読んでないに違いない。そうでなければこんな支離滅裂な世界にはなっていないはずだ。

私はため息をつきながらあたりを見回す。なるほど黒と赤を基調としたゴシック調のオブジェクト。悪くはない。しかし魔王以外の生物の気配がない。

 

「おいっ!魔王ギリデスダリアン」

「うわぁ。怖い。昔からそう呼ばれてきていた気がする!」

「そうコードを書き換えたからな。本来なら裏でやるもんだが、同時進行するしかない!慣れろ!」

「無理言うなあ……」

「君以外の家臣は?」

「は?」

「いや、家臣だよ。四天王とか、炎のなんちゃらとか、水のなんちゃらとかいるだろ?彼らにも説明しなくちゃならん。あまりキーパーソンに干渉はしたくない!しかし言いたくはないがこの世界、破綻が大きすぎて埒が開かない。呼んでくれ。事情を説明するから。天啓かますから!」

「おりません。ここには私1人です」

「それは序盤に出てくる森の中に住む老人のセリフなんだよ!君は王だろう!何を統べてして王を名乗ってるんだ?」

「はぁ。そういわれましても生まれた時からこうでしたので……」

「クソ……性格も穏やかすぎる。なんだこいつ。わけがわからないぞ」

「……そっくりお返ししたいですよ」

「まぁいい、四天王は後で作るとする。それで!村は焼いたのか!?」

「はぁ!?何言ってるんです!?」

 

魔王は目を白黒させている。

 

「君は魔王だろ!世界征服を目論まなくちゃダメだろ!」

「いや、私はこの住まいが気に入っておりまして……多くは望みません」

「それは物語中盤、寒村に住んでる老婆のセリフなんだよ!動機がなきゃ勇者が旅にでないだろうが!なんてやつだ!世界征服を望む様に修正だ!」

「ええー。私の意思は?」

「大いなる宇宙の意志の前に、君の意思など無に等しい。尊重はされない!」

「横暴な」

「必死なんだよ神様も。ちなみに勇者はこの辺の村に生まれる。周辺地図はどうなってる……えっ……おい!」

「はぁ、なんでしょう?」

「隣の村じゃないか!」

「ああ、そうなんです?」

 

呑気に答える魔王に拳を振り上げたくなる。彼に罪はないのだが。

 

「近いよ!これじゃ世界が展開しないだろうが!エルフの賢者とか、暗い過去をもつ歴戦の戦士とか、艱難辛苦に会う前に君に出会っちまうじゃあないか!」

「私が倒されればいいんだからいいんじゃないです?」

「簡単にいってくれるな!そういうわけにはいかないんだ!こっちにはこっちのルールってもんがあるんだよ。これじゃあご近所さん同士のケンカじゃねぇか!世界を巻き込んでくれ!声出していこう!」

「は……はい」

「声が小さい!」

「は、はい!」

 

よくみればオブジェクトの配置も雑だ。

これじゃあ生まれた瞬間、勇者の村が勇者もろとも滅ぶ。

頭痛がしてきた。ロキソニンを飲み、気持ちをを落ち着ける。

 

「生まれたばかりの村がデスジャイアントとか、キリングドラゴンとかに囲まれてるのどういう神経してんだこれ……交易とかすらできないだろ……ステータスも魔王より高い……なろう小説じゃあるまいし」

「なろう……?小説……?」

「ええい、こっちの話だ!いちいち注釈を入れてちゃ話が緩慢になる!君はミュートだ!」

「……!!」

 

急に声が出せなくなった魔王は何か言いたげだが、事は思った以上に深刻だ。これは力業で対処せざるを得ない。

 

「いいか、いまから君の脳内に膨大な新しい情報と、環境が流れ込み始める!たぶん死ぬほどつらい!私は経験ないからわからんが!恨むなら前任者を恨め!その恨みを勇者にぶつけろ!いくぞ!」

 

 

「フン、貴様が勇者か。こんなゴミクズに殺られるとは四死魔どもも堕ちたものよ」

「よくも仲間の死をそんなふうに!やはり魔王!貴様は許せない!俺たちの絆の力を!人間の底力を見せてやる!」

勇者が吠える。

「あんたにゃ恨みはねぇが、大将には恩があるからな。死ぬまで付き合うぜ」

歴戦の勇士が剣を構える。

「私の森を、家族を返せ!」

エルフの賢者が杖を構える。

勇者が天高く手をかざすと、まばゆい光があたりを包み込んだ。

「……!それは、光の刻印!!光の神殿エンシェントドラゴンの加護を得たか……。ならば我も本気を出さねばなるまい!来い!!勇者よ!貴様を私の恨みの念でくびり殺してくれる!」

「いくぞッ!うおおおおーっ!」

閃光とともに両者が激突する。

 

そうだ。これでよいのだ。我ながらよくここまでもってくることができた。

 

 

 

「いや、よくがんばったと思うよ。実際。あそこまで崩れてちゃ修正はきついもん。よくここまでもってったね?」

「いや神様がやれって言ったんじゃないですか。本当、死ぬかと思ったんですよ?」

「でも……魔王が勝っちゃうのはマズイじゃん?世界閉じないじゃん?これどうにかならないかな?」

「……恨みの力が強すぎたみたいで。とりあえず、勇者の子孫いたことにして、そこに天啓の方向でちょっと対応します」

「うーん、世代もんじゃ冗長になっちゃうんだけどねぇ」

「もうこれ以上言われても無理ですって……勘弁してくださいよ。神様」

 

私は世界を創造する仕事をしている。人間的な表現で表すとするなら、所謂神様だ。神と言ってもそう大層なものじゃない。神様の上には神様がいる。

 

ちなみに私は今転職を考えている。

どこかでみた構図。