予告通り星屑ニーナについて語りたい。
この作品はエキサイティングするような話じゃなくて、邦画的な情緒ある漫画だと思っている。
そういう映像作品が好きな人にはお勧めだ。
ロボットと少女という歪なボーイ・ミーツ・ガール。
甘酸っぱいような不思議な感覚。
この作品を語れる語彙を私が持ち合わせているか不安だが、ぜひ読んで欲しいので語ってみたい。
あらすじと概要は公式より引用
少年はヒトでなくロボット。少女は可憐な女子高生。ふたりの出会いからはじまるタイム・スキップ・コメディ-が幕を開ける!
星屑(ほしくず)クンはヒトではなく、ロボット。ニーナは可憐な女子高生。ふたりは出会い、そして、一緒に暮らした。この世界は不思議がいっぱい! 宇宙から降る雷魚、会話するサルの玩具、当たった3億円の宝くじ、そして、過ぎ行く時間。1年後、5年後、10年後。ロボットは歳を取らないが、人間はあっという間に老いていく。物語は、神の速度で、未来へと進んでいく! 『少年少女』、『機動旅団八福神』に続く、福島聡の新シリーズ“タイム・スキップ・コメディー”それが『星屑ニーナ』! 分冊版第1弾。
※本作品は単行本を分割したもので、本編内容は同一のものとなります。重複購入にご注意ください。
上記で書いてある「機動旅団八福神」がきっかけで福島先生作品と出会い、この漫画に出会った。
この魅力を語る。
ロボット「星屑」との時間旅行
読者は、星屑というロボット、つまり不死の存在である観測者とともに、長い長い時間を旅することになる。
星屑は様々な人間と出会う。その星屑の目線を通して、その人の大切なものを感じることができる。登場人物は立場、性別、年齢の違う人間達で、時代によって異なる表現で描かれていく。
すべての中心にあるのはニーナという女性。
星屑とニーナを起点に広がっていく人と人との心のつながり。それが時を超えて広がって、繋がって、紡がれていく。
本作の特徴は、あっという間に作中時間が過ぎ去っていくところ。
人も世界もどんどん星屑を置いて進んでいく。
星屑はそんな記録を未来へ繋ぎながら、新たな人と、人との出会いを繋いでいくのだ。
諸行無常。万物すべてはうつろうものだというのを感じさせてくれる作品。
しかし、テーマは死生観ではなく、出会いから始まる「それぞれの星屑探し」だ。絵本のような優しい世界観も本作の魅力。
それぞれが、それぞれの「星屑」を拾う旅
星屑というワードがこのマンガのキモだ。
あまりいうとネタバレになるので、抽象的な表現も増えるが、ご了承いただきたい。
どの時代の登場人物も人生という旅の中で、それぞれの「星屑」を探し歩いている。
漫画はエンターテイメントだ。心を揺らす演出をどこかに用意している。星屑ニーナはそういう揺さぶりは極めて少ない。悲劇的でもなければ、喜劇的でもない。
悪く言えば平坦かもしれない。
だが、本作ではそれは短所にならないのだ。
平坦であるからこそ、「世界はうつろう」という抗いようのない大きな力を体感として味わえるのだ。
星屑とともにいる人間達が、自分なりの「星屑」を探し、長い時間の中を歩んでいる様子を見届けた時、心に温かい火が灯る感覚がある。
タイムスキップという話の展開が難しそうなテーマだが、無理やりに時間が飛ぶ感覚もなく、かといって過度に間延びしている感じもない。
絶妙な塩梅で作品が描き上げられている。
紙面上の白昼夢
作品全体の空気感は夢の中にいる感覚に近い。
意味があるような、ないような。現実と空想の境目に読者は誘われる。その世界観が時間経過の加速、減速の境目をボカしている。
漫画でこういった空気感を感じられるのがすごい。
この作品でアイコンのように使われる「魚」
これがまた幻想的なのだ。
詩的な世界観で紡がれる世界
この漫画はとても繊細だと私は思っている。
宙を舞う魚、語りかけてくる月、太陽。サイケデリックな背景など、とにかく幻想的。
キャラクターのセリフも詩的なことが多い。
こういうポエミーな漫画はぼんやり飛んでいきがちな雰囲気があって、登場人物象もボヤボヤしてくるものなのだが、この作品は各キャラクターがキチッと立っている。
それを支える圧倒的な画力と、コマ割りの上手さ、世界観作りで漫画としての体を崩していない。
過度に写実的でないわけでもなく、過度に漫画的すぎない。
それが本作の特徴だと思う。
映画的表現が光る!
この漫画、とにかく表情や間のとり方の演出が上手い。
漫画はある種歌舞伎みたいなもので、喜怒哀楽の記号的表現がはっきりしている。
これは利点でもあり、弱点でもある。
誇張して描くことで、より強く、わかりやすく印象に残すという意味では漫画は強い。
逆に繊細な感情の機微の表現は、映像作品で役者が醸し出す雰囲気にはかなわない。同じ人間だからこそわかる染み入るような演技というのは漫画的表現とは対極にある。
とりわけ、動作、息遣いなどの非言語的な表現は記号に落とし込みづらいと思う。
それを紙面に落とし込むのは高い画力が求められるし、かといって写実的すぎては漫画の意味が薄くなる。
例に挙げると、「コロコロコミック」の漫画なんかは漫画の記号的表現の極地にいる。
テーマや画風が現実に近づくほど、その記号表現との折り合いは難しくなる。
それを書き文字で補ったり、トーン、背景、コマ割りで補ないながら登場人物の複雑な心中を表現するのだ(自論)。
漫画原作の映画を見てみるとしっくりくると思うが、「カイジ」、「ライアーゲーム」は実写と漫画の破綻は比較的少ない。
これは原作のテーマが現実寄りで、感情の機微に過度に漫画的表現をもちいていないから成立しているのだろう。
「鬼滅の刃」が実写化されたら、成功すると思う?
つまりそういことである。
「るろうに剣心」ってすげーよな。あれは下地に時代劇としての共通概念があるからどっちでも成立するんだろうなぁ。
ちょっと脱線した。話を戻そう。
星屑ニーナはそんな漫画的要素と映画的要素の魅力を、作者の画力とコマ割りで見事に同居させている。
キャラクターの目線、距離、配置されているオブジェクト。何も言わない眼だけのコマ。風景。これが漫画の中での「間」を上手に作っている。
映画的に賞賛するのであれば、カット割りのセンスが良すぎる。
感情の揺れや、その場の空気を感じやすいようにできている。
言わずとも伝わる心の揺れ。これを感じられるからこそ本作は成立するのだ。
この感覚は読んでみたらわかる。
星屑ステイゴールド
私はこの作品は絶対に映像化してほしくない。
紙面でこれをやったことに大きな意味があるんだ。
独特な空気感、それを表現するためにコマ割りも多く、細かい。
癖ある作品なので正直人は選ぶ。
しかし私は好きだ!
間違いなく名作だと思っている。
この不思議な夢の世界と、加速と減速を繰り返す時間旅行。ぜひ体感してみて欲しい。
ひょっとしたら、あなたの「星屑」が見つかるかも知れない。
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