ミソジノハカバ

脳内のガラクタ置き場。フィクションとノンフィクションが入り混じったカオスです。ゲームの話が多いですが、おもしろいと思ったことはなんでも書き留めます。

【日記】魔が刺しに来る。

イライラしながら書く日記なので、いつも読んでくださってる方には嫌な思いをさせるかもしれない。

無理に読まずに、ブラウザバックして欲しい。

 

 

「魔が刺す」。言い得て妙だ。

昔から使われる言葉っていうのは本質を的確に突いてる。

「魔」ってのは心に無理やり踏み入る暴漢ではないのだ。そういう強い痛みや刺激には人は抗うようにできてる。

でも心は針でつくような、ほんのちょっぴりの痛みには鈍感なんだと思う。

「魔」は上手く麻酔をかけ、心の芯みたいな硬い部分をすり抜けながら、人を刺していく。

その麻酔は甘美な味がするもんだから、より深く針が刺さっても気が付かなくなる。その傷口がじわじわ大きくなって心が腐って、芯が崩れても痛みがなければ人は気づかない。

 

人生に芯ある気高さは必要だ。

腐った感性では腐ったものしか見えなくなる。

私はそう思っているし、信じている。

 

「魔」ってなんだ。

今回はそんな話。

宗教的な話じゃあない。ただ心底ムカつく話があったから聞いて欲しいってワケ。

 

高校の友人から電話がかかってきた。

彼とは仲が良かったが、互いに別々の大学に進学し、離れた場所に暮らすことになってからはすっかり疎遠になっていた。

 

「おう。久しぶりだな。元気か?」

 

電話越しの友人の声は弾んでいて、なにやら楽しそうだった。

他愛のない思い出話に花を咲かせながら、何の要件か、ぼんやり頭で予想をつけてみる。転勤で近くに来たから飲みの誘い?

もしくは結婚でもしたんだろうか。私が遠方からの出席になるから誘いづらいのかな?

なんてなかなか本題を切り出さない友人の不器用さを愛おしく思った。

 

他愛ない話もつき、そろそろ会話にも間が空いてきた。頃合いじゃないか?

言いづらいなら私からつついてやるかなんて思いながら、軽口を叩くように尋ねる。

 

「それで?なんかあった?」

 

友人は声のトーンを少し明るく変え、

 

「お前、幸せか?今の稼ぎで満足か?」

 

と聞いてきた。あまりに突拍子もない言葉にイマイチピンとこず、そんな話は別にいいだろなんて思いながら

 

「ああ。別に裕福じゃないけど。俺はこれでいいんだ」

 

と返す。友人はいやいやと俺の言葉を遮りながら、

 

「でも金があるに越したことはないだろ?」なんていう。

 

ここで私は察する。

こいつはもうかつての友人ではなくなってしまったのだと。

彼の脳みそは「魔」に与えられた蜃気楼のような希望におかしくなっているのだ。

もう彼の言葉を最後まで聞くのも馬鹿らしいと思いながら話を続けさせてやる。

これは介錯をしている気持ちだった。

 

「あぁ。そりゃあればな」

「いい仕事の話があってさ。隙間の時間で儲けがたくさんでるいい話があるんだ」

「ふーん。良かったな。じゃあお前さんがそれで稼いで今度飲み代でも奢ってくれや」

「いや、そういう話じゃなくてさー」

 

わかりやすい投資の話。

わかりやすい商材の話。

 

ああ、なんてこった。よりによってなんでお前がそんなことになったんだ。

高校時代、周りが推薦で適当な進学するなか、数少ない一般受験組で切磋琢磨して勉強したよな。

体育祭では2人でかったりーっていいながら、裏でサボったよな。カラオケでアニソンばっかり歌う俺を気持ち悪ぃ!って罵倒しながら自分もアニソン歌ってたよな。

どっちが早くゲームをクリアできるか競争したり、ストリートファッションの雑誌を読んで、服を買いにいったり、色んな思い出があったじゃないか。

 

そんな思い出の逡巡を少しも察する様子なく、綺麗なガラスを踏み荒らすように金、金、金の話をする彼。今まで大切にとっておいたものはあっという間に壊れて、崩れて、粉々になって黄砂みたいに吹かれて飛んで行った。

 

1人の友人をこの瞬間、今まさに失っている最中で、その心中は憐れみと、虚しさで満ちている。

 

友達ならなにか言葉をかけるべきなんだろうか。

しかし、もう彼に何の感情もわかなかった。

この瞬間、この時点で電話口の相手は親愛なる友人から軽蔑するゴミに成り下がった。

吐く言葉は麻酔で腐り切った脳みそが撒く有害ガスだ。

 

そんな聞くに耐えない話をやんわりと躱す。

最後の会話だ緩やかに締めてやる。

 

そんな上手い話があるなら、みんなそれを実行して金持ちになっているはずじゃないか?

お前はどうしてそのノウハウを俺に教えるんだ?

そしてなぜそれに金が必要になるんだ?

それを自分で実行して、金持ちになればどうか?

金持ちになって、それでなんだっていうんだ?

 

それでも彼は躱した先にズイズイと進んでくる。

ここから先は私の心理的防衛ライン。キルゾーンだ。いい人タイムは終わる。そこで止まってくれ。そんな思いで相手の声を遮る。

 

「あのさ。俺はいま、俺なりに満足してるんだ。お前と久々に話せて、嬉しいなって思ったんだ。その幸せホッコリ思い出タイム分だけ、黙って罵倒もせずに、やさーしく、丁寧に話聞いたんだわ。

休日にこんなくだらねぇクソみたいな話に、胸糞悪い思いしながら時間使って付き合ってやったんだ。これ以上は限界。ここでお前から電話を切ってくれ。少し頭冷やせ。それでもこのクソみたいな話を続けて無様を晒すってんなら、縁を切られる覚悟をしてくれ」

 

友人だったアイツは少し間を置いて、

 

「いや、資料を見れば……」

 

その瞬間、眩暈がするくらいの怒りと失望が込み上げてきた。

こんなに怒りに当てられるのは久しぶりだった。

 

「お前は俺の中でたった今死んだ。2度と電話してくんな。間違ってもツラみせんじゃねえぞ。くたばれバカがよ」

 

ソファにスマホをぶん投げる。床に叩きつけないだけの理性が残っていて良かった。

 

妻は会話を一部聞いていたのか、そっとお茶を出してくれた。

すまんな。少し散歩してくるよ。なんて取り繕ってはいたが本当は泣き出したい気分だった。

 

哀れだよな。私もお前も。目の前の感情に振り回されて。

 

「魔」が刺すのは仕方ない。

でもそれを跳ね除ける強さがないと、人間、信頼を失うぞ。

相手が誰であれ、その話を持ち掛けた瞬間終わりだ。

「金」と「人」を天秤にかけ、「金」をとった。

その事実しか残らないんだ。

 

甘い話なんてない。都合のいい話なんて絶対ない。

対価を得るには相応の支払いが生じるんだ。

リスク、時間、技能。それが世のことわりだ。

社会科で習わなかったか?

魔に刺された馬鹿だから忘れてんのかな。

私たちの多くは凡人だ。突出した才なんてないんだ。例外的に飛び抜けた天才を模倣したって私たちは届かないし、意味がないんだよ。

 

だから時間と努力によって得た技能を使って相応な人生を楽しく歩んでいくものなのだ。それは人がホイホイ与えてくれるようなもんじゃないのだ。

みんな学生からそうやって生きてきたはずなのに、すぐ忘れる。

 

「金」って魔の前に何もかも投げ出しちゃう。

 

刺された針の麻酔で馬鹿になると、綺麗な思い出まで「金」の魔力で消し飛ばしてくるんだ。

 

私はそれを嫌悪する。

努力もせず、考えもせず、それを手にしようとした者。

魔が刺して、それ以上に大切なものを手放す愚者を軽蔑する。

 

心底がっかりした話。

 

失うものは、そして人に失わせるものは思ってる以上に大きいぞ。

あと友人だったアイツにこの話を持ち掛けたクズは地獄に落ちろ。

お前らに待っているのは地獄だ。

金に溺れてくたばりやがれ。