ミソジノハカバ

脳内のガラクタ置き場。フィクションとノンフィクションが入り混じったカオスです。ゲームの話が多いですが、おもしろいと思ったことはなんでも書き留めます。

テセウスの私。

ダントツだ…。

あんたこの中じゃやっぱダントツ…

ぶっちぎりの奴隷野郎だ

人当たりは優しいし、言葉遣いも配慮がある。

何より誠実…っぽい?

一見はいい人…

でもその中身は他人から発せられる

「悪意があるんじゃないか?」

って事にはすごく敏感…そうする事で何か都合の良い事でもあったりするの?

どう生きるのもアンタの自由だけど

したり顔で諭される方はたまったもんじゃない。

皆それぞれ自分の生き方があるんだ

アンタは薄っぺらい目でしか見てない

他人も自分もね

アンタみたいな人

すごくやっかいだよ

 

引用元:『嘘食い』 31巻 第336話 奴隷野郎

著者:迫稔雄

 

 

 私の大好きな漫画、嘘喰いに登場する斑目貘が放つこの言葉。

 先日、通勤中に読めるように電子書籍で買いなおし、久々に読み返していたら不意の大ダメージを食らった。

 

 この言葉は私にとって鋭すぎる。私の心を容赦なく刺してくる。

 

 この言葉を放たれるのは、「チャンプ」という平均的日本人男性。むしろ平均よりもいい人で優秀だとすら思う。

 チャンプはふとした失敗で社会からドロップアウト。架空のMMOゲーム「プロトポロス」にのめりこむ。彼はゲーム内では超優秀なプレイヤーであり、それをきっかけに、無人島を舞台としたリアル「プロトポロス」のプレイヤーとして招待される。

 彼はそこで「奴隷」という身分に落ちてしまう。

 その後、彼は日々の労働の中、仲間と互いを励ましあいながら、生きていて、頼母子講を行なっている。嫌味のない、本当にただの善人である。

 

 そこに斑目獏が現れて……という話で、いきなりあのセリフをぶつけられる。

 

 確かに、彼の行動描写を見返すと、無意識に自分の善意の見返りを求めている。その善意に見返りがない時に、口には出さないにせよ、相手を嫌悪する描写が目立つ。

 自分の思考通りに相手が動かないと、相手が悪く、自身の善人な思想についてこれない可哀想な悪人なんだと勝手に納得し、思い込む。

 時折、他人の悪を叩いて、被害者面しては自身の正当さを確認し安心するのである。

 

 これはまさに今の私そのものである。

 

 チャンプは斑目貘の言葉を真っ直ぐ受け入れ、自分の弱さと対峙するのだが、私はチャンプにはなれないだろう。

 

 斑目貘の発言は彼の主観、彼の評価である。まどろっこしい言い方をしているが、彼はチャンプが面倒くさいと言っているだけだ。社会的に間違っていると糾弾したわけではない。

 斑目貘はお世辞にも社会的に善人とは言えず、独善的で、何人もの人間を脅し、ギャンブルで打ち負かし、間接的に殺してきている。いわゆる悪人である。

 

 しかし、この言葉が私をざっくり刺すのは何故だろうか。

 

 答えは簡単。私が斑目貘のようになりたかったから。

 憧れの彼に、自分の生き方をやっかいだと否定されたからショックを受け、自分が1番見られたくない、痛いところを突っつかれたからダメージをもらった。

 

 私は斑目貘のように、独善的に、何にも縛られず、自分らしく生きて逝くということを諦めた人間だ。

 私は生きやすいように、自分を曲げて社会に適応した。それが自分にとって1番生きにくい方法だというのに皮肉なものである。

 

 社会において優秀だと判断されるために、心や思想を整理していくと、人は必ずチャンプになる。でもそれはならざるを得なくてなった自分だ。

 それが自分の「深い本質」からは外れているから生きづらいんだと今は考えている。

 自我が強ければ強いほど、社会と自己の矛盾が大きくなり、心の摩耗速度は上昇していくんだろうな。私の自我は中途半端に強いがため、こんなことを思い悩むのだろう。

 私はそんな自己矛盾の大きさにすり潰されながら生きてきていると最近自覚したのだが、心が壊れる寸前になるまで気が付かなかった。

 

 この私の心内の問題は、テセウスの船のパラドックスに似ているとふと思う。生存のために、心の中身を入れ替えた自分は、過去から変化した自分は、果たして自分なのか?

 

 ジョジョの奇妙な冒険 第5部ではこんなセリフがある。

 

・我々はみんな運命の奴隷なんだよ。

・無事を祈ってはやれないが、彼らが眠れる奴隷であることを祈ろう。

 

引用元:ジョジョの奇妙な冒険

    作中スコリッピの発言

    一部のみ抜粋

著者:荒木飛呂彦

 

 

 私にとって、眠れる奴隷から目覚めた奴隷になるのは、すべての自分を正面から認めて、表現できた時なんだろうと思う。

 

 いずれできるときがくると信じている。

 から、取り憑かれたようにこんな駄文を書くのだ。

 

 早く目が覚める事を、心から望んでいる。