ミソジノハカバ

脳内のガラクタ置き場。フィクションとノンフィクションが入り混じったカオスです。ゲームの話が多いですが、おもしろいと思ったことはなんでも書き留めます。

【日記】クラシック、敗者、鮫、金属音

クラシックが流れている。聞いたことあるフレーズだが、曲名はわからない。私の人生の中にはこういうものが多い。弦楽器と管楽器のハーモニーが耳から入り、反対側の耳から抜けていく。心地はいいが脳には刻まれない情報なのだ。

 

清潔感のある椅子に腰掛けると、眼前に大袈裟な絵画が飾られている。

心のざわめきを抑えるための配置なのか。

そんな意匠も虚しく、周りの人間はその絵画に目もくれずにスマートフォン上に指と目線を滑らせている。今際の際も我々は電子の海を泳ぐのだろうか。

 

重苦しい沈黙の空気の中、よく通る女性の声が誰かの名前を呼ぶ。名前を呼ばれた人間が吸い込まれていき、そしてまた、沈黙の帳が降りるのだ。

誰1人口を開くことなく、ただ彼らの帰りを待つ。それは裁きを待つ心境に近い。

 

泣き声が聞こえる。

私もすぐそこにいくことになるだろう。

私は上手にやれるだろうか。無様を晒さないか心配だ。せめて潔く、それを受け入れたい。それが男の矜持だ。強がってみせるが、虚勢だ。虚しくも、この段階までくると、そのくらいしか私にできることはないのだ。

 

ふいに私の名が呼ばれ、ずくんと心臓が跳ねる。

覚悟をきめ、椅子に張り付いていた腰を無理やり剥がし、歩を進める。

 

これは罰だ。

怠惰を極めた人間の罪。私は罪の対価を支払わなくてはならない。

 

グッと力をこめてドアを開く。

鳴り響く金属音と、嗅ぎなられない匂いが私を包み込む。それは不安が粘着性のある泡となって浮いていて、私にひっついてくるような不快感があった。そんな泡、ありはしないのに反射的に顔を拭う。

 

「こちらへどうぞ」

 

そんな声が事務的に私を誘う。

案内する人間の顔は見えない。声からして恐らく男性だろう。大きなマスクで覆われ、手には手袋、全身が白衣で覆われ、おおよそ人である装いが全く見受けられない。それは非日常の化身に見えた。

 

「本日はどうされましたか」

 

男が私に尋ねる。

私は罪を数えながら、彼に赦しを乞うように、こう伝える。

 

右奥歯が痛いです……と。

 

見事に虫歯だった。ふざけやがって!

電動歯ブラシで歯を磨き、フロスまでしているのにこれ以上どうしろってんだよ!

人間の歯脆すぎないか?壊れるのはいいから、また生えるように進化してくれませんかね。

鮫みたいにさ。私は鮫になりたいよ。

 

それか、いっそ全ての歯をメタル化したい。

なんなら「GO! GO! NEJ I!」とか掘ってさぁ。ニコッて笑うとそれが見えるとかクールじゃない?

ついでにグラフィティ。

歯医者が好きな人間なんてこの世に存在しないと思うのだが、御多分に洩れず、私も大嫌いだ。

口の中を見られるのは恥ずかしい。私は繊細なのだ。大切に扱ってくれ。

子供を扱うように頼む。

 

痛みより頭に直接響くあの音が我慢ならない。

私は鼻呼吸が苦手なので、流れてくる水に溺れそうになる。ギャングの拷問だろ。

これ、洋画でみたことあるぞ。

「私は何も知らない!本当に知らないんだ!」

気分は「パルプフィクション」でハワイアンなビッグカフナのチーズバーガーを食っていたアイツである。チーズロワイヤルだ!

※ビッグカフナバーガーは実在しないらしい。好きなハンバーガーチェーンって聞かれてうっかり答えない様にしような。

 

ゴム手袋ごしの人の体温も気持ち悪いし、かといって素手で触られるのはもっとやだ。先生も嫌だろ。これで手打ちにしませんかね。うへへへ。

子悪党ムーブかましても痛みは消えないんだけど。

とにかく、嫌いなんだ!助けてくれ!

 

きっと先生もおっさんの口の中見るなんて嫌だろうな。

 

治療を終えた頃には精神的に濡れ鼠にされ、息も絶え絶えである。こんな思いまでして金までむしられるんだから、この世の地獄だ。

受付で会計を済ますと、次回の相談をされた。

 

ええっ?またやるんですか!?

この流れを!?

へへっ。この辺で手打ちにしませんか旦那ァ……。

 

いまは狂ったように果物を合成するゲームをして気持ちを落ち着けている。

こんど記事を書こう。このゲームは恐ろしい。