実家から両親が遊びにやってきた。
いいというのに大量の食糧を持ってくるのが親というもの。毎度、我々が何人家族にみえているのか不思議になる。
2人以上に見えているなら大ごとだ。ここは事故物件かもしれない。もしくは親がボケ始めているのかもしれない。どっちにせよ怖いんですけど。
妻のためにとスイカを２玉もってきていて、妻が何に見えているんだろうと苦笑してしまった。人間サイズのカブトムシでもこんなに食べない。私は果物が大の苦手なので、妻に２玉頑張ってもらうしかないだろう。君は三食スイカだね。（にっこり）
まぁなんにせよよかれと思ってやってくれていることにあれこれいうの野暮だろう。ひきつった顔をした妻に「ごめんね」と小さくお詫びしておいた。
それよりも私になにもないのが問題だ。
愛しの息子にも何か用意しているのが道理だろう。さぁなにかだせと思っていると、「あんたにはこれもってきた」と両親が渡してきたのは数の子のしょうゆ漬け。
ふーん。やるじゃん。
何を隠そう私は魚卵の類が大好きで、おせちは数の子しか食べない。同僚からよく痛風を心配されるのだが、魚卵とビールが楽しめない人生は考えられない。
これは幸せだ。数の子を食べながらビールを飲むぞフフン。なんて考えながら、成分表をぼんやり読む。私はこういうのを読むのが意外と楽しくて好きなのだ。
不思議な事に何度見てもそこに書かれている賞味期限は23/8/前半と刻まれている。
ふーん。ダメじゃん。
母さんこれ、賞味期限切れてるよ。しかもけっこうな勢いで超過している。停止線を大きくはみ出て、何なら交差点のど真ん中に差し掛かるくらいの超過だ。「電車でGO！！」だったらもうゲームオーバーだ。
露骨にがっかりした顔をしていると、母曰く「冷凍しているから大丈夫」とのこと。ウチの家族って冷凍すれば何もかもが解決すると思っているフシがある。ばあちゃん家の冷凍庫もヤバイことになってたし、血なのかもしれない。
え～？ほんとにぃ～？ほんとぉ～？
普段ならそんなわけないだろ！ それがまかり通るなら賞味期限なんて存在しないだろ！ と一笑に付すところなわけだが、目の前にある数の子の魅惑に目がくらむ。あのセクシーな曲線美、こんがりと茶色い（醤油色）肌。危険な数字。もはやすべてが蠱惑的だ。数の子。君は美しい。
ふいに妻と目があう。妻は真顔で首を横に振っていた。
え～？だめなのぉ？
両親が帰り、ビール（第３）をたしなみながら、ふと冷蔵庫を見る。
「彼女」が微笑みかけてくる。
まぁ１かじりくらいダイジョブやろ。
弾ける食感。いい塩梅の塩気。それをビールでグイっと流し込む。
こんな愉悦がこの世にあったなんて。
気が付けばペロッと全部食べてしまっていた。
変な味もしなかったし、ま、大丈夫だったんだろ。
とおもっていたら、次の日、大変な腹痛。
起床した瞬間「ポケモン剣盾」の「ジムリーダー戦闘」が頭に流れている状態だった。額から粒のような汗がでて、「ぐうっ」と声が漏れるくらいに痛い。
胃の中で三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEが、例の「R.Y.U.S.E.I.」ダンスを踊っている妄想がふと頭をよぎる。「静かにしてろ！」と何も悪くない三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEに、毒づく私。
あの痛さは何かにぶつけないとやってられない痛さだったんだ。申し訳なかった。三代目。私、よくわかんないんだけど、初代と二代目っているのかい？ よろしく言っておいてほしい。
久しぶりに会社に電話をし、休みをとったわけだが、お腹が痛いから休みますなんて１００％仮病だと思われているだろうな。でも賞味期限切れの数の子くって腹壊しましたなんて口が裂けても言えない。
母に電話し、数の子がダメだった！と話すと、そうか。じゃあ次は新しいのを買っていく。とのことだった。じゃあ許すよ。
妻は「愚か」と一言残し、スイカを一切れおいて出勤していった。ほんとすいませんね馬鹿で……。
つーかまだ痛いんだよなぁ。ナマモノは怖い。牡蠣でもあたったことないのにな。
みなさんはくれぐれもお気をつけて。
生ものは賞味期限オーバーラップはダメ、絶対。
あと、息子娘にものをもっていくときは、適量を心がけてね？
アラフォーの息子に大量のレトルトカレーとツナ缶を持ってきたりしてはいけないゾ。いつまで一人暮らしだと思ってるんだか……。
