今日も今日とて、社用車で外回りである。
台風だろうが、大雪だろうが、矢が降ろうが、ミサイルが降ろうが、サラリーマンは走り回らねばならぬらしい。逆に何が降れば休めるのか問いたい。
ニュースキャスターは心配そうな顔をしながら、「安全にご注意ください!」なんて言う。そんなに危ないなら君も家にいたほうがいい。そのニュースを放映するためにも、多くの人が君の言う危ない場所に出勤しにいくのだから。
巡り巡って、私が出勤する羽目になってるのにも、君は加担しているわけだよ。わかっているのかね? なんて嫌味なことを言いたくなるほど、台風ってのは気持ちが沈む。
雨で煙る路面に、乱反射するヘッドライト。ぎらぎらと光る白線が流れていく。
不明瞭な視界の中、ボンネットを叩く雨は、火花のような音を散らしながら弾ける。ラジオの音を掻き消す雨音は耳障り極まりない。雑踏の中にいるようで、とにかく神経に触る。
苛ついてハンドルを指で弾いていると、ふと、前の車のステッカーが目に入る。黄色と黒の目を引く配色で、何か描かれているのが目に留まった。おそらく、「BABY IN CAR」 だろう。
赤子が乗っているのか。と思った瞬間に、赤子の微笑みが頭に浮かび、苛立ちの波が少し凪いだ。
小さな命が乗っている車両だ。優しい気持ちで、ゆとりを持たねばなるまい。短気は損気だ。
信号が赤に色を変え、私は緩やかに車間を詰めた。
ステッカーには、「城攻めに向かっています」と書かれていた。
城攻めとは穏やかじゃない。そもそも呑気に運転をしている場合じゃないのではないだろうか。
恐らく、君は車両を破城槌として突貫する重大な役を務めるのだろう。君をまつ足軽たちが、今か今かと、台風の中、到着を待ち侘びていることだろう。
なぜ、いすゞのトラックではなく、軽自動車で出陣したのか。私には理解が及ばない計略、知略、戦略の限りがそこにはあるのだろう。
君の心意気は私がしっかり受け止めた。
さあ、早くどこぞの城に突っ込みにいけ!
そして、対象が取れなくなって宙に浮いた私の気遣いと優しさ、存在しない無垢な赤子の笑顔を返せ!
そんなステッカーをみて、歴女だった先輩を思い出す。車に六文銭ステッカーが貼ってあったもんだから、縁起でもないことするなあと思って、歴史が好きか聞いたことに端を発する。
彼女は真田幸村が好きなようで、とにかく熱く語ってくれた。語りすぎてエミネムの『Rap God』みたいになっていた。話の内容は覚えていない。ただ彼女のよく回る舌に、「オーマイガー。シーイズギャングスタ」とつぶやいてしまうほどであった。
彼女の歴女歴はどこから始まったのか。
私には恐らく『戦国BASARA』、『刀剣乱舞』あたりが悪さをしたのだろうと思いながら聞くと、池波正太郎が好きで……とまたエミネムになっていた。
私は自分を恥じた。
歴女だからって、オタクとレッテル貼りした愚かさを恥じた。邪推した後ろめたさに、熱く歴史を語る彼女を直視することができず、私は目を伏せた。
目を伏せた拍子に、運悪く開けっ放しの彼女のカバンの中身が目に入ってしまった。意図せずカバンの中を見てしまった自分を嫌悪する。
しかし、目に入ったものの衝撃で、すぐに嫌悪感は吹き飛んでいった。
カードファイト!!ヴァンガードのデッキケースが入っていた。
そう、池波正太郎の代表作といえば、カードファイト!!ヴァンガードがあげられる。
彼女は聖書であるそれを肌身離さず持っているのだろう。
いつでもヴァンガードできるように、池波正太郎してるんだよな?
イエローサブマリンにいこう。
そして私の反省の時間を返せ。
私にヴァンガードのルールを教えてくれ。
前記事の友人と面白半分で購入したが、泥酔していてルール理解ができなかった悲しい過去を清算させてほしい。
後日、私もオタクであることを話し、飲み会でコソッと聞いたら、彼女に悪さしたのは『遙かなる時空の中で』でらしい。あと、ものすごい勢いでFGOを薦められた。申し訳ないが、宗教上の理由でNGというと、なぜかそれだけで通じた。
オタク同士の会話はスピード感があっていい。ハイスピードアクションゲームみたいな、音ゲーみたいな楽しみがある。
コーエーテクモの業は深い。
勉強を全くしない不良の友人が三国志だけ異様に詳しくなる現象なども起こる。
彼は戦国BASARAには否定的だったなぁ。
「伊達政宗はあんなに刀持てるわけがねえ!」と憤っていた。
でも諸葛亮孔明だってビーム撃たないよ?
野暮なのでその辺はいいっこなしか。
コーエーテクモは歴史でオタクを蝕む。
ちなみに1番業が深いソフトは……語るまでもなかろう。
例のバリボーだよ。
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