「お先します!おつかれさまです」
私は小走りで職場を後にする。いつもはサービス残業をし、人の分まで仕事をかぶる性分であるため、オフィスの面々は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見ていた。
今日はどうしてもこなさなくてはならない用事がある。あの日の思い出を受け取りに行かねばならない。私の青春が詰まった大切な思い出のゲームなのだから、今日くらいの定時退社許されてしかるべきだ。
ゲーム『ZONE OF THE ENDERS』シリーズは、我が人生の中で、最も思い出に残り続けている名作である。PS3のHDリマスター版も限定版で購入するほど好きだ。そんなゲームが時を経て『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS: M∀RS』としてVR化するという。私はこのニュースを見た時に、持っていたスマートフォンを取り落としそうになる程驚いたと同時に、PSVRを即座に購入していた。
出会いは不純で、『ZONE OF THE ENDERS Z.O.E』に当時プレイしたかったMGS2の体験版が封入されているという理由だけで購入した。
しかしながら、『未確認浮遊体験』に、少年の私が虜になるのに時間はかからなかった。その続編『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』は何度も何度もプレイを重ねて、主人公のセリフを暗記する程にやりこんだ。
当時、ゲームは店頭販売が基本であり、ネット販売などは珍しかった。クレジットカードをもっていない中学生。親に何とかお願いして、サントラ、設定資料集付きのコナミスタイル限定版を購入してもらった時のことを思い出す。設定資料を、生意気にも軍手を手にはめて、大切に読んでいた当時を思い出す。
PS2版は実家に眠っているが、重厚感のある金色の箱に、オービタルフレーム「アヌビス」が印刷されたPS3プレミアムパッケージは今でも私の宝物で、寝室に飾ってある。
いまでも、これからもジェフティに搭乗する準備はできている。
車のエンジンをかけながら『Beyond the Bounds』を流す。安物の軽自動車はオービタルフレームとなり、カーナビはハイテクコンピュータに変貌し、夜の道路はさながら宇宙コロニーのように神秘的になった。
予約した店舗に到着し、予約引換券を店員に渡す。
メガネをかけた私と同世代であろう男性が、分厚いリストを見ながら予約品の確認をはじめた。
ふと陳列棚をみると、銀色の箱にサファイアのように輝くジェフティが印刷されている箱を見つけた。限定版があったなんて。なんということだ。
私は急いで店員に尋ねる。
「すみません。あちらの限定版購入変更することはできますでしょうか」
店員はレジスターから顔をあげ、少し考えた後。優しく微笑み「構いませんよ」と言った。
レジスターに銀色に輝く箱が登場する。夢にまでみたジェフティ。
何と美しい。彫像のような優美さと、宝石のような煌めき。
思い出に脚色されたとはいえ、今でも十分に光を放つ存在である。
店員もどこかそわそわとしているように見える。
「……アーマーンへ行くのか……?」
ふと店員が呟く。
私は驚き、パッケージを凝視していた視線を店員に移す。
視線が交錯する。
メタトロンの緑色の輝きが互いの脳内に閃く。
これは作中の名シーン。レオ・ステンバックと、ディンゴ・イーグリットが邂逅するシーンの台詞だ。
「だったらなんなんだ……!」
とディンゴが聞き返すシーン。
私が思わず吹き出すと、店員も笑った。
なんてことはない。お互いランナー(パイロット)だったのだ。
ちなみにこの話は実話。
私がサビ残をする真面目な社員と言う部分だけは嘘だ。
店員さんもこのプレミアムパッケージを買ったのだとか。
なかなか洒落たことする店員さんだが、一緒に仕事はしたくない。
共感性羞恥でギィーッ!ってなってしまう。
相手が俺だったからよかったものを……オタクの悪いところ漏れちゃってるぞ!
他の客には絶対にやるなよな!
このシリーズ『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』だけが話題に上ることが多いが、『ZONE OF THE ENDERS Z.O.E』からプレイして初めて完成したゲームになると考えている。だから買うならPS3版が圧倒的にオススメ。『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS: M∀RS』はVRがある人のみ買えばいいと思う。
レオからディンゴへと、ジェフティが継がれて語られる物語。エネルギー資源メタトロン、軍事要塞アーマーンをめぐるバフラムと連合宇宙軍との戦争。
レオとディンゴは互いに、立場も目的も異なりながらこの物語にジェフティと共に巻き込まれていく。両名から紡がれる物語が重なる瞬間に『ZONE OF THE ENDERS』は完成する。
複雑すぎず、(完璧に歴史を追おうとするとアニメ版などもあるので複雑だけど)エンターテイメント性のあるストーリーに仕上がっているため普段ロボットゲームをやらない方たちにもオススメ。アニメ映画を一本観るくらいの感覚だ。
また、製作陣が演出をよくわかっている。
新川洋司大先生のメカデザインがあまりにもかっこいいのはもちろん、その機体が映える瞬間、登場人物が一番カッコよく見えるカットシーンを無駄なく詰め込んできている。完成度が高すぎる。目が離せなくなる。とにかく夢中になって何度も観てられる。
特に『ZONE OF THE ENDERS Z.O.E』主人公レオとの『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』主人公ディンゴが邂逅するシーンは最高。
ディンゴ・イーグリットは井上和彦氏が演じているのだが、皮肉っぽいセリフ回し、大人の気怠い色気の中に、心内に炎が燃えているように感じられる演技。
対して、レオ・ステンバックを演じているのは鈴村健一氏。ガキが拗らせた青臭い正義感に融通の利かない頑固さの中に、実直な優しさが表現された演技。
どちらも筆舌に尽くしがたい。
ゲーム性も素晴らしく、当時プレイステーション2で発売されていたが、「未確認浮遊体験」のキャッチコピーに恥じないスピード感、爽快感。当時度肝を抜かれた記憶がある。ANUBISからマルチロックオン機能や、グラップ機能が追加され、より気持ちよく縦横無尽に空を駆け回ることが可能になった。
流石に今やると古いのかな。私の思い出補正バフがしっかり乗っている評価なので。
とにかく、当時は唯一無二だった。
いまでも私の中では唯一無二だ。
私はこの後、VR版をプレイするのであるが、
初めてゲームでゲロ吐いた。
はいたわー……。(青い顔)
私はまだまだランナーにはなれないのだな。
我が家の家宝。PS2の限定版は実家に置いて来てしまった。
ちゃんとあるかな。今度確認しに帰ろう。
このゲームを制作していた。小島監督はコナミを退社されたため、続編はほぼ絶望的だと思われる。KONAMIめ……。
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