ミソジノハカバ

脳内のガラクタ置き場。フィクションとノンフィクションが入り混じったカオスです。ゲームの話が多いですが、おもしろいと思ったことはなんでも書き留めます。

【ポケモン作り話】マサラ役場のコレイダさん

まず最初に。

 

☆本記事はポケモンシリーズを土台とした二次創作となります。

 嫌悪感がある方はブラウザバックして下さい。

 実際のポケットモンスターゲームシリーズなどとは一切関係ありません。

 本編を乏しめるような意図はございません。

 問題がある場合はすぐに消しますので、ご指摘いただければ幸いです。

 

 ちなみに私はポケモンを愛しています。(最重要)

 

スマホが鳴り響いて、休日の終了を告げる。これがモーニングコールなのだからうんざりする。

近頃はこんな休日もどきばかりがカレンダーを埋め尽くしていく。

 

ポケモンバトル」が流行り始めてからというもの役所の仕事は増える一方だ。

そこら中で行なわれるポケモンバトルが問題視され始めたのは昨今のこと。

それにより試合は申請制になり、限られた場所でのバトルが義務付けられた。

しかしながら現在は、国によるさまざまな法規制、市区町村でのルールが制定されはじめた過渡期だ。野良バトルはそこらで行われているし、それに付随する育成、環境へのトラブルは後を経たない。バトル愛好家が多い中、制度が追いついていないのが現状である。

 

私が勤める「マサラ」の地価は安い。所謂、寒村といって差し支えない。

はずだった。……それは今や昔の話。

 

ポケモンバトルに特化したポケモンを育成するにあたり、広大な土地に需要が集まったのか、マサラには遠方からブリーダーがやってくるようになった。

マサラも最初は積極的に誘致していたが、それに比例してこの地域のトラブルは急増してきていた。

 

僻地の役所なら楽だろうと喜び勇んで転属先をマサラ希望にしたというのに。これでは本末転倒である。楽をできたのはほんの数年だった。今では大都市よりも激務である。

 

地方の役所は何でも屋みたいなものだ。そのくせ予算はない。

トラブルが増えたからといって、税収は増えるわけでもなく、外注など夢のまた夢だ。

結果、役場職員の業務量が増える。昼行燈志望の私にとっては悪いことづくめだ。

 

眠っている体にコーヒーを染み込ませて、脳を叩き起こす。

 

こうして私、コレイダはボヤ騒ぎのあったトキワの森に直行する羽目となった。

 

鬱蒼としげる森、キャタピービードルなんかがいた昔懐かしい森の面影はなく、今や孵化厳選とやらで逃がされたポケモン達が流れ住み、生態系は大きく変貌している。草陰からバンギラスが飛び出て来た時には肝を冷やしたものだ。今回も一応警戒だけは怠らずに藪を漕ぐ。

少し進んだ先には、すでに現着していたタカハシが現場を調査していた。

こちらに気づいたタカハシが駆け寄ってくる。

 

「あっ、コレイダ先輩。休みなのにすんません!」

 

タカハシは申し訳なさそうに詫びる。

 

「いや、タカハシ君こそ連勤だろ。お互い様だよ。そんで、どう?現場は?」

「軽いボヤですね。一応周辺をサーチャーで確認しましたけど、ボングリ反応もないし、モンスターボール痕も無いんで、対戦での被害では無いと思います」

 

タカハシは焦げた木の幹を指差しながら、調書を確認し始める。

 

「……となると野生か。この辺り炎タイプで森焼いちゃうようなのはいないと思うんだがな。違法ブリーダーかな」

「その線ですよね。焦げ跡の位置も低いですし、小さな火で炙っちゃったって感じですね。狙って焼いたって感じじゃないです」

 

タカハシの見立ては正しい。大型のポケモンが縄張り争いで焼いたにしては火が小さい。ここのところボヤ騒ぎが多いのも、外来のポケモンがここに迷い込んだと考えるのが自然だ。それにしてもタカハシの仕事の速さには舌を巻く。こいつはいずれ出世するだろう。素早い状況整理と把握、ここまで正確に見聞できる職員はそういない。

 

「高さ的には小型だね。この辺でくさいところだとヒトカゲくんあたりじゃないか?野良ブリーダーも扱いやすいしねぇ。彼らは」

「ですね。俺もそう思ってます。リザードンはバトル人気も高いですから」

「とりあえず、空から見るか。ヨルちゃん出といで」

 

私はヨルノズクのヨルちゃんを繰り出す。

 

「悪いけどヨルちゃん。この辺見て回れる?」

 

ヨルノズクのヨルちゃんは頷き、大きく羽ばたき、空へ向かった。

 

「タカハシのジョンとポールのイワちゃんズにも頼める?」

 

ジョンとポールはタカハシの相棒のイワンコ達で、よく躾けられていて匂いに敏感だ。数々のトラブルを解決してきている。

 

「あいつらならもう周囲の探索任せときました。ポールは特に神経質ですから、見つけたら吠えてくれると思います……っと噂をすればですね」

 

トキワの森イワンコの鳴き声が響く。

 

「タカハシもイワちゃんズも優秀だなぁ。とりあえず向かいますか」

 

現場から程遠く無い開けた草原。そこには予想通り、数匹のヒトカゲたちがコロニーを作っていた。ブリーダーの違法放流だろう。おもわずため息が漏れる。

 

「結構数いますね。どうしましょ。コレイダさん」

「まぁ捕まえて博士さんとこ送るしかないでしょ。いい新人君との出会いに貢献しようじゃないの」

「ですよねー。それじゃ、いつもの手順でいきます?コレイダさん頼みで申し訳ないですけど。ハナちゃんいないと成立しないですからね」

「そうすっか。あとでハナちゃんにオボンの実奢れよ?じゃあハナちゃんでといで」

 

私の相棒、ラフレシアモンスターボールから飛び出してくる。同時に甘い香りが漂い始める。そんな甘い香りにやるせない心が少し潤った気がした。

それとほぼ同時にヨルノズクのヨルちゃんが最小限の羽音で舞い降り、こちらの指示を待っている。

 

「ヨルちゃんもちょうど合流したね。粉まいて、風で拡散させよう。できるだけ彼らを怖がらせないように。彼らに罪はないんだから。逃がさないようにイワちゃんズには周囲見てもらってて。あ、そうだ、イワちゃんズはカゴのみ持ってる?」

「もちろんです」

「おみごと。仕事ができる。じゃあハナちゃん。頼むね。ヨルちゃんは「不眠」だから。思い切りやっちゃって!」

 

ラフレシアのハナちゃんがにこりと笑い、花弁を震わせると、あたりに甘い香りが漂い始める。その甘美な香りに、思わず私まで眠ってしまいそうになる。それをヨルノズクのヨルちゃんが小さな羽音で、しかし確実な風の力であたりに充満させていく。

頬をつねりながら様子を見ていると、程なくしてヒトカゲたちは全員眠りについた。

 

タカハシは指示するままなく、役所支給品ボールでヒトカゲたちを捕獲し、ボールケースにうつしていく。

捕獲されたヒトカゲ達は何も知らぬまま生きていただけだろう。彼らは生息地不明の希少種枠だ。それがコロニーを作る。恐らく、不慣れな土地、互いの火を消さぬよう、コロニーをつくり、今まで耐え抜いてきたのだろう。不安でいっぱいだったに違いない。そんな環境に虫唾が走る。

そんな感情が顔に出ていたのか、勤めて明るいタカハシの声が響く。

 

「いや、コレイダさんのおかげで早く済みましたよ。あとは俺の方で博士の方に送っときます」

 

部下に気を遣わせるのは三流だなと苦笑する。

 

「お疲れ様。まだなんか仕事残ってる?」

 

タカハシは渋い顔をしながら書面を読み上げる。

 

「えー。ミント大量栽培による匂いの苦情。隣家からの砂おこしでの苦情。ブリーダーの大量アメ投与疑いの査察と……」

 

思わず言葉を遮る。

 

「タカハシ、もういい。頭が痛くなって来た。今日は上がろう」

「そうすね。さすがに土日対応は無理な案件ですし…。ところでコレイダさん、これから時間あればひと勝負どうです!?マサラ対戦場空いてますし」

 

タカハシは目を輝かせて言う。

タカハシも元はプロトレーナー志望。ポケモンへのこだわりで夢は叶わなかったが、それでも役場でその手腕を振るっている。私も同類のわけだが。

だからこそ、私はタカハシを買っているのかもしれない。

 

「よくこれ対応した後に戦う気になるなぁ。流石に嫌だよ」

「コレイダさん、隠れ猛者ですからね!久しぶりにカイリキーくん見たいですし。ウチのルガルガンシェリーも元気有り余ってて……」

「カイリキー?ああ、チャンプか。今日は連れて来てないよ。こないだ崩壊寸前の空き家解体手伝わしちゃったからね。流石に俺らの道楽に付き合わすのは悪いよ」

「そりゃチャンプに悪いですね!それじゃまたの機会に!」

「お詫びと言っちゃなんだけど、報告書は俺から上げとくから。博士さんとこいったら直帰しな」

「ありがとうございます!おつかれっした!」

 

そういうタカハシに手を振り、森を後にする。

 

明日もまた、役場の1日が始まる。

今日はハナちゃんの香りでリラックスさせてもらおう。

 

そう思っていると、スマホが鳴り響く。

 

どうやらそういうわけにもいかないらしい。

 

役場は今日も忙しい。