ミソジノハカバ

脳内のガラクタ置き場。フィクションとノンフィクションが入り混じったカオスです。ゲームの話が多いですが、おもしろいと思ったことはなんでも書き留めます。

【作り話】最後の喫煙所

まず初めに大切な事

 

嫌煙家はブラウザバックしてください。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・商品名とは一切関係ありません

この物語は喫煙、闘争を推奨するものではありません

この物語は「筒井康隆先生」著である「最後の喫煙者」に影響を受けています。

それを了承した上で読んでください。

 

どうでもいいですが、これを書いていたときのBGMは「King Gnu」様の「 一途」です。私の脳内の解像度を上げるために書いておきます。

 

再三言いますが、各作品と本記事とは無関係です。

 

 

 

喫煙所に立てこもってから3日。

 

最後の要所となるここ〇〇駅前喫煙所では、絶望の空気と副流煙に満ちていた。

政府が喫煙禁止措置を行ってから、我々「愛煙革命群」は、数々の煙草業者をパイプに、資金、武器、煙草を得ていたが、4年の戦いを経て疲弊化。政府により供給は打ち崩され、兵站は壊滅状態。もはや崩壊まで秒読みの段階であった。

それでも我らは脳内に残ったニコチン受容体からのエネルギーをイデオロギーに変え、激しい戦闘を繰り広げていたのである。

 

決定打となったのは皮肉にも兵站が崩れたことにより発生した電子派、紙巻派の内ゲバ。これが決定打になり、内部分裂が深刻化。電子派はかつての信念を捨て、「イグゼクスネオ」を発足。

これにより勢力図は大きく塗り替えられ、紙巻き派である愛煙革命群は大幅に弱体化を余儀なくされた。我々は政府が組織する絶煙統括部隊と、かつて同志であったイグゼクスネオ。これらと敵対する四面楚歌の状態と相成った。

 

政府取締機関「絶煙統括部隊」の目がイグゼクスネオに逸れたことはかすかな暁光ではあったが、少ない煙と後ろ暗い金で結託するまでにそう時間はかからず、希望に見えた戦力分散という光は、気休めにもなりはしない蜃気楼だった。

 

愛煙革命群が壊滅状態であることに依然変わりなく、むしろ状態は悪化の一途を辿ることとなる。減っていく同志たち。奮戦も虚しく、根絶される計画があることを諜報部より報せがあった。

 

それからは一方的な蹂躙が始まった。

 

ニコチンパッチ射出装置による政府軍の攻撃は苛烈を極め、数々の同志達がライターを捨て、洗脳されたかつての同志達が私たちにニコチンパッチ射出装置を向ける事態になった。かつての同志が同志を撃つという構図はさらに愛煙革命軍の士気を削ぐこととなる。

 

どういう手法か、煙を辞めた者たちは、どうしてか煙を激しく嫌悪するようになる。

 

「健康」、「長生き」、「副流煙」という大言壮語を吐きながら、酒を呑み、車で二〇系ラーメンを食いに行っては、それを啜ったニンニク臭い口で我らを罵りながらニコチンパッチを撃ちつけてくるのだ。

 

我らの基地はもはやここしかなく、籠城戦を始めたのが3日前。奇しくも残った同志は私を含め3名。

同志たちにも疲労とヤニ切れ、限界の色が見え始めていた。

 

「隊長!吉田の野郎が!パッチを俺に向けて撃ったんです!こともあろうにこの俺にですよ!?苦楽を共にして……あいつのポー〇モールを探しにヤバい橋を渡ったことだってあった!それなのにあいつ!クソっ!」

 

横井の憤る声が喫煙所に響き渡る。かつてはぎゅうぎゅうに鮨詰めであったこの喫煙所には私含め3名しか同志はいない。

その怒声はよく通り、喫煙所内の白い煙を揺らし、悲鳴のように反響した。それは我々の心を負に揺らすものであるが、横井の慟哭にも似た怒りは収まらない。

 

「体を思えって!あいつ!次元大介が好きでペル〇ルを!そんな思い出まであいつは捨てちまった!吸い殻みたいに簡単に!クソッタレ!イライラする!この世は地獄だ!」

「落ち着いて!横井さん!それはもう1週間前の話ッス!クソっ!ヤニギレ起こしてやがるッ!隊長っ!」

 

見かねた渡辺が私を見る。

 

「……ショー〇ホープ咥えさせてやれ。ママのおっぱいよりかは幾分かましだろうよ」

「えっ!!隊長!!でもショッポは!!最後の一本ッスよ!?隊長の……」

「俺のことはいい。今は横井のヤニギレが深刻だ。俺達はニコチンがないとゾンビになっちまう。それに俺にはメ〇ウスエクストラライトがある」

「そんな空気みたいな煙草っ!隊長がヤバいっすよ!」

「2度言わせるな渡辺ェ!横井にショー〇ホープを咥えさせろっ!そのあとはお前もセ〇ンスターに火を点けろ!冷静になれ!」

「た、隊長……。渡辺!復唱するっス!横井にショー〇ホープを咥えさせた後、渡辺もセ〇ンスターを喫煙いたしまス!」

「そうだっ!それでいい。息をしろ!深く、深く、海の底をイメージして、ゆっくり、強くだ!肺胞をぶち壊して息ができなくなるまで、肺を煙で満たせ!」

 

復唱する渡辺の目には涙が浮かんでいた。

私たちの兵糧はこれで尽きる。

恐らくこれで、私たちの闘争は幕を閉じる。

渡辺は手早く横井の口元にショー〇ホープを運ぶ。深く息を吐く横井を確認した後、渡辺も最後のセ〇ンスターに火をつけた。

私もメ〇ウスエクストラライトに火をつける。煙は軽く、気道をすり抜けていく。気休めには十分。ここからは背水の陣だ。

 

「た、隊長。俺」

 

横井が申し訳なさそうに私を見る。

 

「いーい煙、吐くじゃねえか。ペ〇メルなんか比じゃねぇ。横井。お前にゃ煙がよく似合うよ。なに泣いてんだ」

「違います!煙が……目に沁みただけで……」

「隊長。自分も、自分も目に染みるッス」

 

ヤニクラしながら渡辺が涙を流す。

 

「何だ、テメェら。愛煙革命群の癖に、煙草の吸い方も忘れちまったのか?俺の吸いっぷり、よく見てろよ」

 

そう虚勢を張り煙を吸うが、不思議と煙が入ってこない。エクストラライトはやはり力不足か。

 

「隊長……。煙草、涙で消えてます」

 

そう言いながら、横井が吸いかけのショー〇ホープを手渡してくる。

そうか、私は、私は泣いていたのか。

 

「隊長……これも……」

 

渡辺が吸いかけのセ〇ンスターをよこす。

煙を放つ、有害物質。でもここには確かに私たちの全てがあった。

私は横井、渡辺からシケモクみたいな2本を受け取り、2本とも口に咥える。唇を焦がす思いでグッと息を吸う。

ジッと、涙で消える火の音。染み渡るニコチン。口に残るタールの香り。

消えた煙草の火とは対照的に燃え上がる闘争の心がそこにあった。

一息で煙を吐き切る。

一瞬の眩暈のような立ち眩みから、スポットライトを浴びたように視界が明るくなる。世界が広がる。私が、私の思想が広がっていく。

自然と力が湧いてきて戦う信念が、いや、願いといっていい。強い唸りのような力と思いが私の心内に去来するとともに、自然と言葉を発していた。

 

「おい!俺の最後の2本吸い!ツインターボをみたか!お前らッ!喫煙信念を述べよっ!」

 

横井が涙をこらえ叫ぶ。

 

「ハイっ!俺はワン〇ースのサ〇ジですっ!」

 

渡辺が何かを決意した目で叫ぶ。

 

「ハイっ!ソリッ〇スネークっス!」

「そうか!そいつらは悪者かっ!?」

「「いいえ!!」」

「クズやろうか!?」

「「いいえ!!」」

「ピンチに屈する臆病者だったか!?」

「「いいえ!!」」

「かっこよかったろ!サイッコウにクールだったろ!?」

「「ハイッ!」」

「そうだよなぁー!かっこよかっだろ!!俺達のクソッタレな日常を明るく照らしてくれる神様みてぇにかっこよかっただろ!?そうだよな!!」

「「ハイッ!」」

 

絶叫のような声が喫煙所に響く。

 

「そいつらはこんな窮地に泣き言を言うか!?」

「「いいえ!いいません!!」」

「そうだ!俺たちは欲に負けたゴミ!副流煙を撒き散らすクズやろうかも知れねぇ!でも、クズはクズなりに信念は絶対に折るなっ!場所を弁え、ルールを守れ!全てに敬意を払え!その上で煙を吐け!機関車トー◯スみてぇにな!そして武器を取れ!出るぞ!弾を込めろ!魂を込めろ!ニコチンを込めろ!タールを込めろ!誇りを込めろ!全てを!ここで全てをこめろ!全ての愛煙家の誇りを!いまここでだ!全部ぶちかませ!」

「「サー!イェッサー!」」

 

たった3名という群れが、絶叫で喫煙所を揺らし、最後の抗戦に打って出る瞬間だった。

 

「ちなみに隊長の喫煙信念を聞いても?」

「確かに、俺も聞いたことないっス」

 

横井、渡辺が私をみる。

 

「……冥土の土産に教えてやるか。私の喫煙信念はな……」