ミソジノハカバ

脳内のガラクタ置き場。フィクションとノンフィクションが入り混じったカオスです。ゲームの話が多いですが、おもしろいと思ったことはなんでも書き留めます。

【作り話】今日、散文的に死ぬか?

 ~前置き~

 

 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。

 今回はゲームもなにも関係ないただの作り話です。

 おっさんの脳内を見てみたい人だけ読んでください。

 おっさんの頭にはこういうものばかりが詰まっております。

 サンプルです。こちらサンプルとなります。

 たまにこういったものを吐き出さないとおっさんはパンクいたしますので、ご承知おきいただきとう存じます。

 

 ~前置き 済~

 

 微睡む意識の沼に足を取られ、一瞬気を失いそうになる。

 彼岸の彼方へ引きずり込まれるにはまだ少し早い。

 肺に煙を吸い込み、意識を戻そうとする。ふいに胸をつねりあげられたような痛みが走り、横隔膜がうるさく反射運動を起こす。テーブルのジャックダニエルの瓶をあおり、息を呑む。

 しばらくすると、アルコールと煙がまざりあった物質が脳内に放たれ、化学物質でできた幸福が注ぎ込まれる。

 

 室内に充満する煙が逃げ場なく天井近くに溜まっていた。

 空調ファンに絡みつくように煙は唸る。

 それはストリートでたむろするフッカーみたいに目障りだ。今はそんな気分じゃない。魂は火の玉みたいに燃え盛って、視界には赤い稲妻が走ってる。

 意識だけが加速していて、身体を置き去りにしていく。残された体が重力に負けて、地底に落ち込むように重い。その重みが意識を繋ぎ止めている。体は錨だ。

 

「つまりさ……散文ってのはさ……。滞留しちゃいけないんだよ。人の中で。ヘイ! 聞いてるか?」

 

 ふいに声のほうに目をやると、うつろ目の男が一人、座っている。

 

「ヒーローにやっつけられたゴジラ? モンスターみたいに。すーっと消えないと。そうしないと世界中ゴジラの死体で溢れかえっちまう。そりゃマナー違反さ。わかるか? マナーってのは命より重い」

 

 暗い地下室。ちらつく蛍光灯の下に男二人がテーブルを挟んで相対している。

 誰だっけこの男。

 あぁ……クソみたいな資本主義の掃き溜めの先輩。つまりは職場の先輩だったっけ?

 靄がかかる視界の男に、意識的に焦点を合わせる。そうしなければ、明後日の方向に意識は泳いでいく。

 

「……散文の解釈は置いといて、ずいぶん詩的な事いいますね。でも人に残らない言葉っつーのは、どうにもむなしくありませんかね」

「俺から言わせれば、なんでもかんでも残り続けるほうがどうかしてる。約束手形を切りながら生きてちゃ膨大な数の手形を引きずって歩かなきゃならなくなる。そんなもん引きずるより、棺桶引きずる方がまだマシさ」

「あんたの棺桶は約束手形でぎっしり……ってわけ?」

「何笑ってやがる。お前の棺桶もだよ」

 

 男は皮肉っぽく右頬を吊り上げる。笑っているつもりだろうか。釣り針にひっかけられた魚だってあんな顔しない。

 

「さぁ。そろそろ〆よう」

 

 男はS&W社リボルバーをテーブルの上に滑らせる。

 さっきまでポーカーで負けた方が引き金を引いてきた。

 引き金はもう既に5回引かれている。

 

ロシアンルーレットは終わりでしょ。まぁ。スリルはありましたよ。もうシリンダーには実弾しか残ってない。あんたの負けですよ。楽しいギャンブルはお開きだ」

「いや。6度目の引き金が引かれない限り、ゲームは続いていくよ。おまえさんが望まぬともね」

 

男は額に指をあてる。

 

「終わらせよう。本来なら自分で引くものなんだろうが、今回は特別に権利を譲るよ。ぜひ、お前が終わらせてくれ」

「冗談でしょ? 単なる酒の席の遊びだ。自殺なら他所でやるんだね」

「じゃあ俺がお前を撃つよ。背を向けた瞬間に」

「いよいよイカれてる」

「じゃあどうする? お前、今日、散文的に死ぬか?」

 

 男は懐からグロックを取り出し、ゆっくりと俺に向けた。ブローバックのロシアンルーレットに外れはない。弾丸は確実に発射される。

 

 俺は静かに照準を合わせる。

 濁った男の目が、俺を捉えて離さない。

 

 腐った雨水を溜めこんだ野ざらしのバケツみたいな目は見ているだけでなぜかイラつく。心の底をさらうような、ざらつく不快感がある。

 そこにないような、底のない深海のような、神を介さないことを意にも介さない。悪辣で混濁した自我の唸り。震える排水溝。詰まった髪の毛。巻かれていく渦。

 

ただただ歪んで黒い。ひどく汚い。

 

「……撃たないとでも?」

「撃っても撃たなくてもどうでもいいのさ。どうせ人生は散文なんだ」

 

撃鉄を起こす。

 

「ニヒリストもそこまでくりゃクールだね」

「俺はリアリストだよ。お前は?」

 

弾丸が男を貫き、男の頭に穴が開いた。

それはただの穴で、男の思想が漏れ出ることはない。

 

「……なんてことはない散文でしたよ。あんたも。俺もね」

 

俺は散文的に笑う。

部屋の明かりが落ちる。舞台の幕が下りる。

俺の意識もそこで途切れる。

だってこれは散文なんだから。

 

「それでいいんだ」

 

穴の開いた男が起き上がり、にこりと我々に微笑みかける。

 

「お前。嘘つきだね」